一坪里山をつくろう

一坪里山

一坪里山

自生種の樹木や草花が次々に「絶滅危惧種」に指定されるなかで、家の庭を「種の保存」をはかる最前線にしようという試みで始めた〈一坪里山(ひとつぼさとやま)〉。そこでは、地域固有の自生種が育ち、小さな水槽の中で、メダカが元気に泳いでいます。

地域の自生種に目を向ける

「一坪里山」で、一番大切にしていることは、その地域に自生している草花を植えて、育てることです。ということは、その地域にどんな自生種があるのか調べなければならず、それを「株分け」して貰う必要があります。問題は、園芸店も植木屋さんも扱っていないことで、どうやって見つけたらいいか、そこが最初のハードルです。
そこで、各地の自生種の草花が置かれた事情について、少しだけ解説しておきます。
環境省が発行している「植物レッドデータブック」によれば、2010年現在、1665種類の絶滅危惧植物がリストアップされています。

ナンゴクデンジソウ例えば、福岡県に生息している自生種は117種類に過ぎず、580種類が絶滅危惧植物にリストアップされています。その中には、かつて福岡の水田にふつうに見られたナンゴクデンジソウも含まれています。四葉のクローバーのような葉をつける、水生シダの一種です。その葉の形が「田」の字に見えることから「田字草」の名がついています。

生物多様性とは何なのか?

現代町家の庭

「生物多様性」とは、多種にわたる生物種と、それによって成り立つ生態系の豊かに、バランスが保たれている状態を言います。
地球上には、自然林や里山林・人工林などの森林、湿原、河川、サンゴ礁など、さまざまな環境があります。地球上の生き物は、およそ40億年もの地球の進化の中で、環境に適応することで、多様に分化しました。
生息する地域によって、体の形や行動などに少しずつ違いがあります。「遺伝子の多様性」と呼ばれています。
自然が創り出した、この多様な生物の世界を総称して「生物多様性」と言うのです。つまり「生物多様性」とは、その土地に自生していたものを、しっかり保存することが基本なのです。
ある草花が絶滅すると生態系そのものが脅かされます。
春の七草も、秋の七草も、櫛の歯が欠けるように身近な環境から失われて行っています。それはそのまま、私たちの身近な環境の劣化を意味しないでしょうか。
ランドスケープの設計者として知られる田瀬理夫(プランタゴ)さんは、このようなことは、ここ30年来のことで、除草剤が大量に散布されるようになってからのことだといいます。
そして、日本中に外来種の草がはびこるようになりました。何千年の歴史をかけて生成されたものが、あっという間に変わってしまったのです。
田瀬さんによれば、外来種の緑は濃くて、在来種の色とは異なるそうで、それは広い野原でみると、よく分かるそうです。
そのことは、日本古来の野原の色が失われていることを意味します。日本人の色彩感覚のDNAに狂いをもたらすことになります。
草木染(野山染)の色に懐かしさを呼び起こされるのは、ほんらいの日本の色だからです。最近の若い人は、外来種の濃い緑しか知らないので、そういう感慨さえ起こらないのかも知れません。これはまことに深刻なことです。

自生種の救済は、家の庭しかない!

現代町家の庭

野草は、除草剤を使っている田畑に育ちません。道も川もコンクリート化が進んでいます。各地の市民公園には、いろいろな草花が植えられていますが、その地域の自生種の草花ではありません。道路の分離帯など、空き地という空き地は外来種に支配されています。
どの自治体も「緑を大切に」というキャンペーンを張っていますが、その「緑」は、全国に流通される大量に栽培されたものです。
真に自生種の樹木や草花を残す道は、現実問題、もう各個(戸)の庭しか残されていないのでは、と田瀬さんはいいます。
たとえば、建築専門誌が組む「緑の特集」号に掲載されているリストのほとんどは、この流通する「緑一般」であって、地域性は省みられていません。それがこの国の緑の状況です。
各戸が「一坪里山」をつくることで期待できるのは、一番大切なお手入れです。せっせと自生株を育てるのは手が掛かります。外来種がはびこったら草刈りしなければなりません。そのようなきめ細かなことは、行政はやりません。しかし、各戸の住人が野草に目覚めたら、それを育てることは歓びに変わります。
リビングの前のデッキで、せっせと育てた草花を庭に移し、そうしてたくさん育ったら「株分け」し合って地域に広めるのです。
この取り組みでいいのは、今のところ、あまりお金が掛からないことです。貴重種の昆虫には、とてつもない高値がついていますが、まだ野草の世界はそんなふうではありません。自生種の樹木も、
古い神社や仏閣に足を延ばして、巨木から実生(みしょう)を拾い、それを小鉢に入れておくと芽を出してくれます。

現代町家の一つ・博多町家 樹の図鑑

「一坪里山」の考え方を基本に植えられた、120種を超える“博多町家”の樹々たちです。名前とともに、一部、その姿を写真でご紹介します。

博多町家樹の図鑑

低木混植

常緑(29種)
アセビ/アラカシ/イスノキ/イヌツゲ/ウラジロガシ/クスノキ/クチナシ/クロガネモチ/コジイ/シキミ/ソヨゴ/タブノキ/タラヨウ/ナナミノキ/ネズミモチ/ヒサカキ/ヤブニッケイ/ユズリハ
落葉(36種)
アワブキ/イヌビワ/ウリハダカエデ/カマツカ/キハダ/キブシ/クリ/コゴメウツギ/シャシャンボ/シロドウダン/タンナサワフタギ/チシャノキ/チドリノキ/ツノハシバミ/ツリバナ/ハギハナイカダ/ベニドウダン/マルバアオダモ/ムラサキシキブ/ヤマブキ

アカガシ
アカガシ

イチイガシ
イチイガシ

カゴノキ
カゴノキ

サカキ
サカキ

シロダモ
シロダモ

シロモジ
シロモジ

センリョウ
センリョウ

ノイバラ
ノイバラ

ヒメユズリハ
ヒメユズリハ

モチノキ
モチノキ

ヤブツバキ
ヤブツバキ


アオハダ
アオハダ

アサガラ
アサガラ

アブラチャン
アブラチャン

イロハモミジ
イロハモミジ

ウメモドキ
ウメモドキ

クマシデ
クマシデ

ケンポナシ
ケンポナシ

コハウチワカエデ
コハウチワカエデ

コバノガマズミ
コバノガマズミ

ゴンズイ
ゴンズイ

サンショウ
サンショウ

タラノキ
タラノキ

ナツハゼ
ナツハゼ

ヤブムラサキ
ヤブムラサキ

ヤマコウバシ
ヤマコウバシ


株物(34種)

アオハダ/アブラチャン/イヌビワ/ウメモドキ/オトコヨウゾメ/カマツカ/コマユミ/サカキ/サンショウ/シャシャンポ/シロモジ/センリョウ/タマアジサイ/タラヨウ/ナツハゼ/ニシキギ/ノリウツギ/バイカウツギ/ハナイカダ/マユミ/ヤマアジサイ/ヤマハゼ/ユキヤナギ/ユズリハ

ウツギ
ウツギ

クチナシ
クチナシ

クロモジ
クロモジ

ゴマギ
ゴマギ

ダンコウバイ
ダンコウバイ

ハクサンボク
ハクサンボク

ヒメウツギ
ヒメウツギ

ムラサキシキブ
ムラサキシキブ

ヤマコウバシ
ヤマコウバシ

ヤマブキ
ヤマブキ


混植生垣(14種)

アラカシ/イチイガシ/クロガネモチ/コジイサカキ/シロダモ/ソヨゴ/ネズミモチ/モチノキ

イスノキ
イスノキ

タブノキ
タブノキ

ナナミノキ
ナナミノキ

ヤブツバキ(新芽)
ヤブツバキ(新芽)

ヤブニッケイ
ヤブニッケイ


地被(11種以上)*丈が高くならない地表面を覆うような植物

イタビカズラ/キヅタ/コバギボウシ/ツルコウジテイカカズラ/アゼターフ/ノシバ

コウヤボウキ
コウヤボウキ

ジャノヒゲ
ジャノヒゲ

ヤブコウジ
ヤブコウジ

ヤブラン
ヤブラン


ランドスケープ設計/田瀬理夫(プランタゴ)